A:はい。2025年10月1日、インドネシアを代表する近代派イスラム組織ムハマディヤー(Muhammadiyah)のファトワー委員会(Majelis Tarjih dan Tajdīd)が、日本において「みりん」を料理に使用することをハラールとして認める公式ファトワーを発表しました。👉 原文はこちら: Hukum Penggunaan Mirin sebagai Bumbu Masakan bagi Muslim di Jepang『日本において』という条件付きのファトワーである点は惜しまれますが、それでも日本食のハラール性理解の進展において大きな一歩といえるでしょう。「みりん」をハラムとする立場を取っているインドネシア・ウラマー評議会(MUI)およびハラール認証を所管する「ハラール製品保証実施機関(BPJPH)」との関係性を踏まえれて、今回のような限定的な形での判断となったのかも知れません。なお、この決定は、日本に住むムスリム女性から寄せられた『みりんはハラールなのか』という質問に対する回答として出されたもので、当法人が関連資料を整え、正式に照会を行った結果、ファトワー委員会において審議・決定されたものです。今後も、みりんや料理酒などが広くハラールとして認めてもらえるよう、当法人としても引き続き各方面へ働きかけを行っていきたいと考えています。みりんは約14%のアルコールを含むため、現在の一般的なハラール認証基準ではハラールとは認められず、ハラール認証を取得することはできません。しかし、イスラーム法学上ではアルコールに関する見解には幅があり、学派によって判断が異なります。たとえば、ハナフィー学派のように「酩酊しなければ少量のアルコールは許容される」とする見解もあれば、シャーフィイー学派などのように「一滴でも禁止」とする厳格な見解もあります。日本人ムスリムたちは、前者のハナフィー学派の立場に近い考え方を採り、「料理中に加熱してアルコール成分が揮発すればハラールとみなせる」と理解しています。そのため、みりんや料理酒を使った日本食でも、調理目的で使用され、食後に酩酊作用がない場合にはハラールとみなす人が少なくありません。一方で、外国人ムスリムの中には「みりん」を飲料用のお酒と混同し、ハラム(禁忌)とみなす人も多くいます。しかし、日本に長く住み、日本の文化や調理法をよく知るムスリムの間では、「みりん」は飲料用のアルコールとは異なる調味料であり、イスラーム法上のハラールの範囲内で使用できるという理解も広がっています。ムハマディヤーが「みりん」について新ファトワーを発表:日本のイスラーム実践における新たな視点2025年1月1日、インドネシアのイスラーム最大組織ムハマディヤー(Muhammadiyah)の中央タルジーフ・タジュディード評議会(Majelis Tarjih dan Tajdīd Pimpinan Pusat Muhammadiyah)は、日本の伝統調味料「みりん」の使用に関するファトワー(宗教的見解)を正式に発表しました。■ ファトワーの背景と意義みりんは日本料理に欠かせない調味料の一つで、魚や肉の臭みを取ったり、照りを出したり、旨味を引き立てるために広く使われています。しかし、みりんには12.5〜14.5%のアルコールが含まれており、イスラーム法上の扱いがしばしば議論されてきました。ムハンマディヤは今回、この問題を「フィクフ・アル=アコリヤート(fiqh al-aqalliyyāt/少数派のためのイスラム法学)」の観点から検討しました。これは、非イスラーム国家に暮らすムスリムが、信仰を守りつつ現地社会に適応して生活するための法的枠組みを提供する考え方です。■ 検討のポイントファトワーでは、複数のイスラーム法原則が適用されています。al-masyaqqah tajlib al-taysīr(困難さは容易さをもたらす)→ ムスリムが非イスラーム社会で生活する際の実際的困難を考慮し、過度な負担を避ける。al-ḥukm ‘ala al-shay’ far‘un ‘an taṣawwurihi(判断は正確な理解に基づく)→ みりんを「酒」としてではなく、「調味料」としての実態を理解した上で判断する。al-umūr bi-maqāṣidihā(行為はその意図に従う)→ みりんを飲料としてではなく料理用として使用する意図を重視。また、みりんは日本の食文化に深く根付いた食材(al-ḥājah qad tanzilu manzilat al-ḍarūrah)であり、インドネシアの「タペ(もち米やキャッサバを発酵させた食品)」のように、アルコール分があっても酩酊目的では使われないという社会的慣習(al-‘ādah muḥakkamah)も考慮されました。■ アルコールと「変性(istiḥālah)」の概念さらに、調理過程でみりん中のアルコールは加熱によって揮発し、その性質(酩酊性)を失う点も強調されています。これは「istiḥālah(物質の性質変化)」というイスラム法の概念に基づくもので、もはや原形の酒と同一視できないと解釈されます。■ 他の学者や国際的見解との整合性ムハマディヤーの判断は、アルコールに関する欧州イスラーム法評議会(ECFR)や、学者シャウカーニー(al-Syawkani)の見解とも一致しています。すなわち、アルコールは本質的にナジス(不浄)ではなく、酩酊目的で飲用される場合のみハラム(禁忌)とされるという考え方です。こうした見解は、アルコール飲料のみをナジス(不浄)としてHaram(禁忌)扱いとするM U Iの2003年以降のファトワーと一貫している。(*現在、インドネシアの基準を含む多くの国際的ハラール基準では、アルコールを着色料や香料の溶媒として使用すること、手指消毒剤やキッチン・製造ラインの消毒に使用すること、香水の成分として使用すること、さらには食品の防腐目的で使用することなどをハラールとして認めています。また、インドネシア・ウラマー評議会(MUI)の2018年のファトワーでは、発酵食品への添加アルコールの使用も認められています。https://halalmui.org/wp-content/uploads/2023/06/Fatwa-MUI-No.-10-Tahun-2018-tentang-Makanan-dan-Minuman-Mengandung-Alkohol.pdfしかし残念ながら、こうした事実は多くのムスリム消費者に十分には知らされておらず、その結果、依然としてあらゆるアルコールをハラムとみなす従来の見解に従う人々が少なくありません。)■ まとめ:日本のムスリムにとっての意味このファトワーは、「現地の文化に根ざしたイスラーム実践」を可能にする重要な一歩です。日本社会で日常的に使われる調味料を一律に避けるのではなく、科学的・法的・文化的文脈を総合的に理解した上で、イスラームの原則に沿った判断を行う姿勢が示されました。少数派としてのムスリムが、自らの信仰を守りつつ、地域社会の中で調和的に生活していくことを支える、極めて意義深い判断といえるでしょう。